これから着工する「老後も快適に暮らせる住まい」の設計上で注意したこと

実施設計が終わり、相見積もりで施工会社が決まりました。

建設費の金額も決まり、いよいよ施工会社との契約をする段階まで来ました。

これから実施図面にそって、いよいよ工事が着工します。

今回の住宅は、お施主様が退職後に建てる平屋の住宅で「終の棲家」ともいえる理想の家の設計だったので、

「老後も快適に暮らせるすまい」

をコンセプトに、普段の住宅設計では考えないことまで注意して取り組みました。

今回の設計で注意したことってどんなところ?

老後を快適に暮らすためには身体が老いてくることや普段の掃除のことなど手のかからない住宅を考えなければなりません。

また、車椅子や寝たきりの生活になったとしても困らない配慮が必要になります。

今回はこれから始まる「老後も快適に暮らせるすまい」の設計上で注意したことなどを取り上げ、「終の棲家」を考える上での参考にしていただければ幸いです。

【自己紹介】

Bさん@アーキトリック
一級建築士 第303020号
耐震診断・耐震改修技術者
アーキトリック一級建築士事務所

設計事務所を18年間(2024年現在)運営している現役の一級建築士です。

店舗や旅館を中心に3桁の案件をこなしてきました。

現在は住宅設計やリノベーションを中心に活動をしています。

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設計上で注意したこと

今回設計した住宅は60歳代のご夫婦とお婆さんの3人暮らしとなります。

土地が広かったのと、お施主様が高齢ということもあり、平屋の家でプランを進めました。

南側に1部屋を

最初にお施主様から条件として

・お婆さんの部屋を南側のにつくりたい
・部屋にはトイレや洗面所を作りたい


など優先する条件がありました。

敷地の出入口が北側にあり、既存の建物が敷地の西側に建っておりそれを取り壊して新しい家を建てることになります。

既存の建物にあわせて庭が作られていたのでそれをなるべく活かすように建物の配置を考えました。

よく日の当たる東側と南側に広い庭や空間を設けて建物を敷地の西側に配置し、南側の庭に面してお婆さんの部屋を作るプランで進めました。

普段、誰かしらいるリビングの近くにお婆さんの部屋があると介護が必要となった場合にとても便利です。

そのため、「リビング・ダイニング・キッチンとお婆さんの部屋」と「夫婦の部屋と納戸、WIC.」をひとまとめのボリュームとしました。

外観のスタディー模型や平面図などで検討し、2つのボリュームの間に玄関やパントリー、ユニットバス、洗面脱衣室、共有のトイレを配置するプランに決定しました。

廊下、出入口の有効幅

今回の住宅は「高齢者等配慮対策等級3」をとるので、廊下や出入口の有効幅に注意しました。

将来的に歩行が困難になったり、車椅子なった場合でも部屋の出入口や廊下の有効幅をしっかり確保しておくと移動や出入りを自分でする事ができます。

軒の出

いまでの家は軒の出が無い住宅が多くなりましたが、雨の日でも窓を開けることができたり、夏の日差しを遮るのにはとても有効です。

軒の出は910mmと1200mmとの2タイプで外観のシュミレーションを行いましたが、寄棟屋根ということもありあまり外観上の違いはありませんでした。

軒の出が1200mmの場合は冬の室内に入ってくる日差しが少なくなるので軒の出は910mmにしました。

掃除のしやすさ

換気計画でマーベックスの「澄家DC」という床下の換気システムを採用しました。

床下エアコンとの相性の良い第一種換気という理由だけでなく、日頃の掃除のしやすさに着目しました。

普段の設計だとなんの考えもなしに天井の換気扇をつけてしまいますが、「高齢になると脚立を使ってのフィルター掃除を自分で出来るのか?」という問題が出てきます。

床下に換気システムがあると、床に給気・排気口があったり、床下点検口を開けての掃除なので高齢になっても大丈夫です。

床に給排気口があるのでホコリがたまりやすく、掃除回数は増えてしまうのですが、日頃の掃除は格段に楽になります。

維持費のかからない素材選び

老後は年金暮らしになるので家の維持費を安く押さえた方がいいと思います。

初期にはお金がかかりますが、20年先を考えると維持費が格段に違います。

維持費のかからない素材として注意した箇所は以下のとおりです

・外壁サイディング
・ジョリパット左官仕上げ
・屋根材
・床材


外壁のサイディング
プラチナコート30、マイクロガード(ニチハ)のついたもので変色などの保証が10年ついて30年間は塗り替えの必要のないものです。

ジョリパッド左官仕上げ
ジョリパッドクリーンマジックを塗布します。これを塗布すると水性の光触媒のトップコートで太陽光で汚れを分解し、雨水で洗い流してくれます

屋根材
ニチハの横暖ルーフαSで、塗膜の保証が15年と超高耐久のものを使用しました。

※プレミアムSだとフッ素樹脂遮熱鋼板となるので最強なのですが、ギングロの色がなかったのでこちらを採用しました。

床材
無垢フローリングでマルホンのカバザクラ120mm幅を使用します。

塗装はArborインビジブルコートで、薄めたウレタン塗装なので水滴をたらして3分後も浸透しないすぐれものです。

また日頃のお手入れ(掃除機や乾拭き又は固く絞った雑巾で水拭き)だけで定期的なワックスがけは必要ありません

高気密、高断熱の性能

高齢になると家の中に急激な温度差があると失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こし、身体へ悪影響を及ぼすなどヒートショックの危険性が高まります。

やはり高気密・高断熱の性能は確保したいところです。

UA値:0.44

ηAC値:1.4

C値:1.0以下(設計仕様)

C値に関してはできてから測定しなければわからないのですが、設計上は高気密・高断熱の住宅となります。

C値を出すために基礎は基礎内断熱で気密パッキンを使用します。

基礎パッキンについて今回はJotoのシロアリ保証1000というものを仕様します。詳しくはこちらを御覧ください↓

最初は樹脂サッシを検討していたのですが、サーモスXのアルミ樹脂複合サッシ/LIXILEでUA値がとれたのでこちらを採用しました。

ガラスはLow-Eグリーン+アルゴンガスのペアガラスを使用します。

開口部の熱貫流率が1.52(w/㎡・K)なので、温暖な静岡では十分な性能だと思います。

断熱材は天井敷き込みになるので、アクリアマット(厚90mm)を2重に張る場合は施工性に問題があります。

できればアクリアマットα(厚155mm)を使いたいのですが価格との折合いが必要ですね。

床下エアコン

「床下エアコン」は今回の設計で一番の試みです。

まだ静岡県ではメジャーではないのですが、長野県ではかなり普及しています。

セキスイハイムの快適エアリーなどは同じようなシステムでセキスイハイム独自の設備になります。

「床下エアコン」とは、壁掛けエアコンを利用して床下に暖かい空気を充満させて足元から温める仕組みです。

この「床下エアコン」の採用にあたっては、実際に設置してあるショールームに見学に行ったり、本で研究したりしました。

実際にはやったことがないので効果が楽しみです。

設計段階で苦労したこと

玄関からの中庭

平屋の住宅は初めての設計でした。

プランとボリューム、屋根の検討を何パターンもスタディーしました。

大きく2つのボリュームに寄棟の屋根をかけて間に中庭を設けるプランに落ち着きました。

この中庭は玄関に入ると最初に見えます。

また、キッチンのサービスヤードを兼ねている中庭になります。

リビングからダイニング

2階建ての住宅だと吹抜けなど空間的な広がりが作れたりするのですが、平屋だと吹抜はできません。

そこで、屋根勾配を利用して勾配天井でリビングの開放感を作りました。

ダイニングからリビング

リビングのテレビ台の後ろの壁にはエコカラットを張り、上部から間接照明で照らすようにしました。

基礎の地中梁の設計

床下エアコンから吹き出す暖かい空気を床下に充満させるには、室内側の基礎立ち上がりを少なくする事が必要です。

基礎の立ち上がりは耐力壁以外は少なくする設計にするためには基礎耐圧盤の鉄筋量を増やしたり、地中梁で補強する必要があります。

私は意匠設計が専門なので地中梁の寸法や鉄筋量を決める根拠を出すのに苦労しました。

地中梁の設計をするために構造計算した記事はこちらになります↓

床下エアコンの機種選定

床下エアコンの情報はネット上ではたくさんあるのですが、具体的な機種選びの記事が少なかったので、エアコンメーカーに確認して機種選定しました。

機種選定で問題になったのは、ワイヤードリモコンがつくかどうかとワイヤードリモコンに温度センサーがついているのかということでした。

床下エアコンはその名の通り床下にエアコンを設置します。そのため赤外線が届かないと操作できないません。

ワイヤードリモコンは必須だと思います。

また本体についている温度センサーが反応してしまうと、床下は狭い空間なのですぐ温まり、止まってしまう可能性があります。

そのため、室内側の温度センサーで動かす必要があります。

具体的な機種選定についてはこちらの記事をご参照ください↓

第一種換気の換気計画

せっかく高気密・高断熱の住宅で床下エアコンを設置するので、換気計画は第一種換気を採用しました。

第三種換気だと冬場は換気することで室内の温められた空気は外に逃げてしまい、自然吸気で冷たい空気が室内に入ってきます。

第一種換気の大きなメリットは、温められた空気の熱を失うことなく換気できるところにあります。

三菱のロスナイでも第一種換気はできるのですが、今回はマーベックスの「澄家DC」を採用しています。

ロスナイの場合はそれ自身で給排気するので室内に床下エアコンの暖かい空気を流入させることは難しいです。

強制的に中間取付形ダクトファンで床下から吹き出す案も考えたのですが…

床下に新鮮な暖かい空気を充満させて室内に吹き出し、床に取り付けた排気口で排気するマーベックスの方式が床下エアコンとの相性がいいとの結論に達しました。

床下エアコンに最適な第一種換気についての検討した記事はこちらをご参照ください↓

まとめ

今回はこれから始まる「老後も快適に暮らせるすまい」の設計上で注意したことなどを取り上げてきました。

もう一度注意した点を確認すると

・南側に1部屋を
・廊下、出入口の有効幅
・軒の出
・掃除のしやすさ
・維持費のかからない素材選び
・高気密、高断熱の性能
・床下エアコン


となります。

老後も快適に暮らせる平屋の家を建てられるのはとても羨ましいですね。

住宅は住む人によって様々な形があります。

今の自分たちの生活にあった住まいを考えてみるのはとても楽しいと思います。

この記事が「終の棲家」を考える上での参考にしていただければ幸いです。

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アーキトリック一級建築士事務所

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